『わたしは可愛い三月兎』
仙波龍英著。紫陽社刊。初版昭和60年5月10日。カバ帯完本。定価1500円。
先年、惜しまれつつも急逝した仙波龍英の第一歌集。歌集としてはめずらしく詩人・荒川洋治の「紫陽社」から出版され、歌壇に逆輸入されるという異例の流通経路を辿った。これも仙波氏の歌壇に対する挑発的パフォーマンスだったのだろう。
そんな出版事情を経て出版されたこの歌集は歌壇よりもむしろ詩壇や一般社会で話題になり、瞬く間に品切れ、重版された。これも歌集発の表紙が漫画であり、さらに内容も仙波氏自信を思わせる「少年」と「姉」と「おおあね」の3人のドタバタ喜劇といった、いかにも「歌壇的生真面目さ」からほど遠い姿勢が一般人に受けたからであろう。
本書を皮切りに「詩集・三月兎」、「エッセイ・三月兎」と続けざまに「三月兎」シリーズは刊行されたが「小説・三月兎」は遂に発行されずに終わった。その後、仙波龍英は『墓地裏の花屋』を出した切り沈黙、死去にいたるまで新たな歌集を編むことはなかった。
死後、ギャラリー・イヴから『墓地裏の花屋抄』が追悼出版された。