『新世紀エヴァンゲリオン』 第1234話 

「飛べない翼」

作・影姫青夜

 

 「ハロー、ネルフの諸君元気でやっとるかね?」
いつも上機嫌のミサトがネルフ本部に到着した。

 「あの・・・遅いですよ・・・ミサトさんもう10時・・・ですよ…アアッ!!」

 シンジが絶句した。

 なんとミサトはペットのペンペンを「だっこ」して出勤してきたのだ。
 リツコが激昂した。
 「葛城中尉!!私物、いや私動物の持ち込みは禁じられているはずよ!!」

 ミサトはにやにや笑いながらリツコの攻撃をゆるりとかわした。
 「いーじゃない、いーじゃない、使徒はどーせ
一週間に一回しか現れないんだし、ネッ、ペンペン。」

 「・・・・・寂しいのね・・・あなたも・・・・」
レイがボツリと言った。

 (CM)

 「ネルフ本部に使徒反応あり!!」
 いつも計器をいじっているお兄ちゃん(名前不明)が絶叫した。
 
 「そいつだな・・・」
 ゲンドウが手を組んであごに乗せるいつものポーズで言った。
 「そのペンギンだ・・・」

 シンジが父をフォローした。
 「え・・・ペンペンが使徒・・・そんな・・・」

 ネルフ全員が一斉にミサトとペンペンを見た。
ミサトは笑っていた。しかしその笑いは少しずつ
狂気を帯び始めていた。
 「あなた・・・ミサトじゃないわね・・・」
 レイの問いかけにミサトが反応した。

 「ククク・・・さすがはファーストチルドレン、
綾波レイ・・・もうこの女の精神は私が完全に支配した。ネルフ諸君。」
 その声はもうミサトの声では無かった。なにか
機械的な人工的な声に変わっていた。

 「賢明なるネルフの諸君、さよう、私だ、君たち
がペンペンと呼んでいる者、それが私なのだ。
私はリリスの最後の末裔、死海文書に記された
ラスト・エンジェル、それが私なのだ。」

 次の瞬間、アスカがペンペンに銃を放った。
 しかし銃光はペンペンのATフィールドに
よって垂直にはね返され、アスカを襲った。
 「アアアッーーー!!!」
 とアスカは絶叫すると血のかたまりを口から
噴き出した。そしてそのまま動かなくなった。

 「なぜ抗うのだ?人間たちよ・・・リリスとリリン
はもともとひとつの存在、私たち使徒はただ
おまえたち人間よりも先行しすぎただけなのだ。
 さよう、人類補完計画・・・ゼーレの老人たち
はよくやってくれた。しかし補完は失敗した。
なぜだかわかるか?諸君?」

 レイがまたぽつりと言った。

 「飛べない・・・翼・・・」

 シンジが震えだした。
 「そんなそんな・・・僕は飛べる・・・飛べる・・・
鳥になってカヲル君のところにいくんだーーー!!」

 シンジはそう絶叫すると窓ガラスをぶち破って、
そのまま地上に落ちていった。

 もはやミサトではないミサトはさらにしゃべり続けた。

 「見ろ、あれが人間の姿なのだ。どこにでも
飛んでゆける、なんだってやれる・・・そんな
錯覚の象徴的存在が私なのだ。自分に翼
があると思いながら、その実、その翼は全然
役にたたない。」

 「要するにお前たちの戯画が私なのだ。ペンペンなのだ!!!」

 リツコが叫んだ。
 「好きだった・・・忘れようとしたわ!!でも駄目だったのよーー!!」
 リツコはそのまま銃を自分に向けると引き金をひいた・・・。

 ネルフの全員がそれぞれあらぬことを口走り、
そして自滅していった。


 あとにはレイだけが残された。
 ペンペンは言った。
 「どうしておまえだけが生き残ったか、わかるか?」
 レイは言った。
 「私の代わりなんていくらでもいるもの・・・」

 「そこまでわかっていれば、十分だ。ではさらばだ。」
 するとペンペンの背中に6本の翼がいきなり
はえた。光輝く翼を振るわせて、ペンペンは
大空に飛び立ち、見えなくなった。

 ミサトがガクリと倒れこんだ。すでに死んでいた。
 レイはひとりで足をかかえて座り込むと、
 かすれた声で唄いだした。

 「わたしに帰りなさい。
 生まれるまえに、
 あなたがすごした
 大地へと・・・・」

 その日廃屋と化したネルフ本部にいつまでも
レイの唄う「魂のルフラン」がこだましていた。
 

 

<完>