『憂国』
三島由紀夫著。新潮社発行。初版昭和41年4月10日発行。ビニカバ帯完本。
本書は文学書のなかでもやや特殊な部類の本である。まず『憂国』という短編映画のフィルムブックであるがそれだけではない。『憂国』の「原作小説」と『憂国』の「シナリオ」が収録されている。つまり三方向から『憂国』を多角的に楽しめる本というわけだ。
さて『憂国』のあらすじであるが226事件に加わった友人の後を追ってひとりの軍人が自決する様までが描かれる。この軍人には「静子」という妻がいてこの妻も軍人の後を追って自害して映画は終幕する。こう書くとあまりに単純な映画のようだが、軍人が「誠」という一文字の遺書を書く場面、撮影では豚の内臓を使ったという切腹の場面、軍人が死んでからの静子の表情など見所は多い。またこの軍人を演じているのは三島本人であることは言うまでもない。
この本の出版から4年後の昭和45年、三島は本当に市谷自衛隊基地で割腹自殺を遂げる。その意味でこの本は三島が映画という形でしたためた遺書なのかもしれない。