『幼年連祷』

 

吉原幸子著。歴程社発行。初版1964年5月5日発行。函完本。 

 本書は吉原幸子の第一詩集。第一詩集にはすべてが集約されているというが正にそのとおりである。この詩集には吉原幸子の「すべて」が集約されているといっても過言ではない。吉原幸子は以後これ以上のレベルの詩集は出していないように思われる。

 さて内容はきわめて童謡的な語り口によって吉原氏自身の遠い「幼年時代」が呼び覚まされている。「赤い月」・「蒼ざめた機関車」・「暗い窓から覗く肺病の少女」など怪奇的イメージの連鎖、ひらがなの多用、旧字旧かなの使用、などによって、読者は吉原氏自身の「幼年」の冥い世界へ誘われる。そこは決して居心地の良い世界でも楽しい世界でもない不安と恐怖に充ちた悪夢的な世界なのである。それはあたかもあのカルト的イラストレーター「味戸ケイコ」の怪奇童話の世界を連想させる。

 本書は吉原氏の解説によると「こどものわたし」の本であり、近いうちに「をんなのわたし」の本を出したいという意向が書かれている。「をんなのわたし」の本が第二詩集『夏の墓』であることは言うまでもない。

 最後に本書は合唱曲になってCDで発売されている。これがまた文字で読むのとは一味違った独特の感触があるものなので興味のある方は御一聞をお薦めする。

 

 

 

『夏の墓』

 

吉原幸子著。思潮社発行。初版1964年12月25日発行。函完本。 

 本書は吉原幸子の第二詩集に当たる。解説によると『幼年連祷』は「黒い本」、『夏の墓』は「白い本」で2冊が対になる構成だそうである。確かにこの2冊は大きさも同じ、装丁も題名が変わっているだけで、違うのは「黒か白か」だけなのである。そのため2冊並べて書棚に置くと大変見栄えがする。

 内容は吉原氏の「女」としての相聞歌である。詩風は『幼年連祷』とほとんど同じであるが『幼年〜』ほどの鬼気迫る迫力は感じられない。やはり第二詩集が第一詩集を越えることは難しいようだ。