出口のない道
(2019年3月15日)
出られない。・・・
出られない。・・・
どこまで走っても出られない。
そんな道路が日本のどこかにあるらしい。
それは出口のないメビウスロード。
一度入ったら決してでられないぞ。。。
そんな道路だって、この世にはあるのさ。。。
※ ※
あの日は高校三年の春休みだった。
東京のA大学に合格したわたしと大学に落ちたので仙台の予備校に通うことになった友人Qが自転車で夜の秋田市を走り回っていた。
わたしはこの4月から大学生、受験勉強にお別れをしたのびのびとした新生活への期待でいつになく心が躍っている、そんな春の夕だった。
自転車で秋田駅からダイエーのある大町を通って、右に折れる。
わたしと友人Qは秋田市外れにある「天徳寺平和公園」を目指していた。
現在では「知る人ぞ知る心霊スポット」として全国的に有名になった「天徳寺平和公園」であるが、その時代はネットなどなかったし誰も天徳寺平和公園が心霊スポットだなどと吹聴する人間はいなかった時代である。
わたしと友人Qは天徳寺の自転車置き場に自転車を置くと、穏やかな丘陵地帯になっている平和公園に登ってゆく。
丘陵の一番上に丸っこい仏舎利がある。
この仏舎利の前まで登ったとき何か妙な雰囲気が一瞬漂った。
何者かが仏舎利の裏に隠れた気がしたのだ。
わたしと友人Qは顔を見合わせた。
「なんだろう??・・・」
わたしと友人Qは仏舎利の裏まで回ってみた。
しかし何もいないではないか。
わたしと友人Qは微妙にホッとして帰路につくことにした。
もう時間はPM8時を回っている。
もう自宅に帰らなくては。。。
わたしと友人Qは自転車置き場まで行って自転車をこぎだす。
一瞬何者かがウシロに立っている気がした。しかしわたしはさっきと同じで気のせいだろうと全く気に止めなかった。
しかしもうこのときにすでにわたしと友人Qは何者かに魅入られていたのではなかろうか。・・・
やがて何かが起こる。
そんな不穏な空気が少しづつだが夜闇(やあん)に漂いだしていた。
気温が急速に下がりだしている。そんな気がした。
わたしと友人Qは天徳寺平和公園から秋田市中心街のほうへ自転車をこいでいる。
あたりは真っ暗である。自転車をこぐ。こぐ。・・・
しかしいつまで経っても真っ暗である。街灯が見えてこないのだ。
友人Q「おい、何か変だぜ。・・・」
わたし「いいからこげよ、すぐ街に着くからよ。」
さらに道路はいつまで経っても真っ暗である。
さすがにわたしはこれは変だと思い出した。
友人Q「・・・どうなってるんだ、これは!!」
わたし「おちつけ!とにかく進め!!」
わたしは冷汗を流していた。
わたしと友人Qは道に迷ったのではないだろうか?
否!わたしはもっと恐ろしい想像をしていた。
わたしと友人Qは「メビウスの円環」のような結界に囚われたのではないか。
もしかしたらわたしと友人Qは永遠にこの真っ暗な道を走り続けるのではないだろうか??
友人Qがさすがに大声を出した。
「変だぜ!!この道路、、、右に折れてみようぜ!」
わたし「ダメだ!!迷路の奥にじぶんから入るこむ気か、とにかく進め!!」
わたしはもう正気を保つのが精一杯であった。
友人Qはもう正気ではなかった。とうとうQは自転車を止めた。
・・・そのとき。
「ゴオー!!・・・・」
トラックだ。
トラックの光にわたしと友人Qは照らしだされた。
トラックはそのままムコウへ行ってしまった。
そうしたらさっきとは雰囲気が違う。
街灯がずっと先に見える。気温が上がりだす気がした。
わたしと友人Qはメビウスロードを脱したのだ。
わたしたちはそのままダイエーのある大町まで戻ってそこで解散した。
※ ※
その夜から約30年以上の年月が経過した。
わたしは今でもときどき思い出すのだ。あの恐るべきメビウスロードのことを。
わたしと友人Qは霊魂(あるいはもっと恐ろしい魔物)に異次元に引き込まれたのではなかったのか。
あの真っ暗い道路はどう考えても通常の空間ではなかった。
いけどもいけども真っ暗な道路。・・・
そんな魔界の一丁目までわたしと友人Qは足を踏み入れてしまったようだ。
あの高校三年の春休みの生暖かい夜に。
あのトラックが走ってこなかったらわたしたちはどうなっていただろう。
そのことを思い出すたびに冷汗が流れ出す。
神隠しとは人間が異次元に引き込まれる現象なのかもしれない。
あの夜、わたしと友人Qは神隠しにあう寸前までいったらしい。
その後、わたしは天徳寺平和公園へは30年以上行っていない。
またあんなことが起こったら、今度こそオ・シ・マ・イかも知れない。
今夜もわたしは冷汗を流しながら、あの夜のメビウスロードの恐怖を噛み締めている。・・・
(了&合掌)
(怪奇王&黒猫館&黒猫館館長)