這いずる悪魔
やってくる。・・・
やつがやってくる。・・・
テケテケと奇妙な音を立ててやってくる。・・・
今から25年ぐらい前の話である。
当時わたしは東京都&世田谷区の祖師谷大蔵という場所にマンションを借りていた。
その日は日曜日、新宿から小田急線で祖師谷大蔵を目指していたのだが、どういうわけか電車が「経堂」で止まってしまった。
「経堂」から「千歳船橋」そして「祖師谷大蔵」、たった2駅ぶんである。
乗客たちが「あ~あ」と重い唸り声をあげてタクシーに乗るために歩き出す。
わたしは止った電車から降りると、真っ暗な線路の上を歩き出した。
線路の上を歩いていけば道に迷うことなく確実に祖師谷大蔵に到着できる。
「ひたひたひた」・・・
真っ暗い線路の上をわたしの足音だけが響く。
しかし何か変なのである。
わたし「うしろに誰かいる。・・・」
耳の錯覚かもしれない。
一瞬「ずるッ!!」という音が聴こえた。
わたしは飛び上がった。
やはりうしろの暗闇に誰かいる。しかし誰なのかは暗すぎてわからない。
これはマジでヤバイ。
もしかして経堂駅から誰かがずっと尾行(つけ)てきたのだろうか??
さらにもし線路の上を歩いていることを小田急の駅員に知られたら面倒なことになる。
わたしは観念して千歳船橋駅手前の踏み切りから一般道路に折れた。
その瞬間、何者かの気配は消えたようである。・・・
※ ※
現在でもわたしはそのときのことをたまに思い出すことがある。
一体あの線路の上に居た者は誰だったのか??
あの奇妙な音・・・「ずるッ!」から推測するに。
それはもしかしたら轢死者の霊だったのかも知れない。
飛び込み自殺、あるいは後ろから押されて電車に身体を真っぷたつにされた死者の怨念。
内臓をはみ出させ、手二本で這いずりながら、うしろから追ってくる、そ・い・つ。
まさにそいつは現代の都市伝説に登場する「テケテケ」そっくりなようである。
テケテケは一般的に「妖怪」と考えられているが、死者の怨霊が化身した怪異であっても不思議ではない。
貴方よ、深夜の線路を歩いてはいけない。
深夜の線路は様々な魑魅魍魎が溢れる場所なのだ。
貴方がもしテケテケに追いつかれたら、貴方自身も身体を二つに引きちぎられてテケテケにされてしまうだろう。
怖い、怖いよ・・・テケテケが追いかけてくる。
東京は電車が無数に走る街である。
そして日常茶飯事のように起こる電車の人身事故。
そんな東京の深夜。線路の上で。・・・
テケテケたちが高速で走り回っている。
手二本だけをかさかさと動かしながら。
テケテケとは21世紀の大都会&東京が生み出した新たなモンスターなのである。
(了&合掌)
(黒猫館&黒猫館館長)