円盤を見た日
(2013年8月17日)
「や〜い!きゅうりババァ!」
とわたしたち小学五年生3人組はリアカーを引く老婆に石を投げつけた。しかし老婆の反応がない。
わたしたちはさらに石を投げつける。その瞬間・・・
「くわッ!」
老婆が振り向いたのだ。
くしゃくしゃの顔をさらに歪ませてわたしたちを威嚇する老婆!
その人間離れした老婆の骨格・表情にわたしたちは鳥肌が立った。
「怒ったぞ!逃げろ!!」
とたちまち逃げ出す私たち3人。
老婆はまだ顔を歪ませてわたしたちをじっとにらめている。・・・
※ ※
その当時、わたしたちの小学校の周辺に「キュウリババァ」と呼ばれている老婆がリアカーを引いて周囲の家に野菜を売りに来ていた。
年齢は80歳ぐらいであっただろうか。
まるでミイラのように痩せこけた皮膚、人間離れしたくしゃくしゃの顔、「S」字型にひん曲がった身体、どこからみても老婆は異形そのものであった。それゆえわたしたち小学生3人組はいつも話し合っていたものだ。
「あのババァは人間ぢゃないぜ・・・きっとミイラか妖怪か宇宙人に違いない。」
キュウリババァはわたしの祖母の家にも野菜を売りに姿を現した。そして祖母の身体の脇から「にィ!」と顔を歪ませて微笑むのだ。わたしは心底、キュウリババァに嫌悪と畏怖を感じた。
そのようなな特異なキャラクターであるキュウリババァであるから、わたしたち小学生三人組の絶好のからかいの対象にもなっていたのである。
※ ※
そんなある日のこと。
学校の裏手にある「金照寺山」という山をわたしたち三人は探検していた。金照寺山にはまだ防空壕や沼が残っていた時代である。
夏の暑い日、わたしたちは防空壕に出たり入ったりして遊んでいた。
午後5時。
さすがに日が翳ってきた。
わたしたちはそろそろ帰ろうとお互いに相槌を打った。
その時。・・・
「アッ!」
わたしたちの中のひとりが小さくうめいた。そしてなにやら天を指さしている。その指の方向にわたしも見た。そして驚愕した。
円盤だ。
円盤が空を飛んでいる。
灰皿をふたつ重ねたような形状の円盤であった。
銀色の円盤はクルクルと回転しながら垂直に降下しているのだ。やがて円盤が地面に着地した頃、わたしたち3人は走り出していた。
「もしかしたら宇宙人に会えるかもしれない・・・」
しかし円盤が着地したらしい場所に到着した時、わたしたちは幻滅した。
「なんにもない。・・・」
きっと円盤は一回着地した後、どこかに飛び去ってしまったのだ。わたしたちはガックリと落胆するとそれぞれの帰路に着いた。
※ ※
次の日、放課後に学校の外に集まったわたしたち3人組みはキュウリババァの姿がどこにも見えないことに気がついた。
きっと怠けて寝ているんだろうと思って、その日は気に留めなかったが次の日も次の日もキュウリババァの姿は見えない。
それどころか学校の誰に聞いてもキュウリババァがどこに住んでいるのか知っている者はいなかった。
わたしたち三人はぞッとした。
キュウリババァはやはり宇宙人だったのだ。
ババァはあの日の空飛ぶ円盤に乗って宇宙へ帰ったのだ。
わたしたち3人は固くそう信じ込んだ。
そしてキュウリババァはわたしたちの前から永遠に姿を消した。
※ ※
今でもわたしは時々空を飛ぶ怪しい影を見る。恐らく円盤なのだろう。そしてその度にキュウリババァのことを思い出すのだ。
きっとババァはあのしなびた身体で円盤を操縦して宇宙をかけているに違いない。きたるべき「その日」のために。
空一杯の円盤が地球を襲う時、(その時期は刻々と迫っている気がする)ふたたび円盤の中から1万、一億人のキュウリババァが姿を現すことであろう。
そしてかってのわたしたち小学生三人組はキュウリババァに復讐されるに違いない。あの日、石を投げた代償として。
来る・・・
いつか、来る。。。
キュウリババァは虎視眈々と地球侵略を狙っているに違いない。
わたしは今でもそのように固く信じている。
(黒猫館&黒猫館館長)