青春の遺書
さようなら、あまやかで、そして苦しかった私の青春よ。
T
俺は待っていたのに。
すっかり拗ねてしまい屋根裏部屋に閉じこもった
俺を諭す親の声を。
俺は待っていたのに。
夜2時の居間で家具を叩き壊すことでしか
現実がみえなくなってしまった俺を
泣きながら組み伏せる力強い親の腕を。
俺は待っていたのに。
クラスのいじめられっ子が追い詰められた小動物のように
かって一度もみせたことのないすばやい動きで
俺の心臓をナイフで突いてくるのを。
俺は待っていたのに。
いつもオドオドした眼をした担任の教師が
俺にむかってはっきりとした口調で
「この!おちこぼれめ!」
と叫んでくれるのを。
だが俺の願いはすべて断ち切られた。
地獄へとつづく階段を下りてゆく俺を
引き止めるものはなにもなかった。
U
ここは廃れた夜の海岸。
気が付けば俺は
かって一番親しかった友の腹を何度も何度も蹴り上げていた。
臓物が奴の腹の内部でひとつずつ炸裂してゆく音が
俺の心のドアをひとつずつ閉ざしていった。
奴の口から噴き上げる血の噴水が俺の心を
溺れさせようとしていた。
黄色かった月が赤く、そして黒く染まりだした時
処刑(リンチ)は終わった。
V
次の瞬間
俺は血糊と糞尿にまみれたかっての友の死体に
取りすがって泣いた。
そして嘔吐した。
涙と反吐を垂らしながら俺は空を見上げた。
ああ・・・月が黒いよ・・・黒い真っ黒だ。
心のそこからそれが真実だと思えた時
俺の心の最後のドアがバタンと閉まった。
W
俺にはもう帰ってゆく家はないんだ。
俺にはもうどこにも居場所はないんだ。
俺にはもううなされずに眠られる夜はないんだ。永遠に。
その瞬間涙が止まった。
悲しみも去っていった。
絶望さえも星星の彼方に飛び去っていった。
黒い月がゆっくりとほほえんだ。
俺はいまようやくひとりの大人として
自立できるように思える。
俺はもうなにも待たない。
X
これから俺がすることは逃げ出した仲間の密告で
駆けつけてくる警官たちを一人残らず惨殺し
さらにそのあとで駆けつけてくる機動隊の隊員たちを
一人でも多く道ずれにして射殺されてゆくことだけだった。
星星のきらめきのなかで俺はいま幸せだった。
星が綺麗だ。
波の音が優しいな。
生まれてきて良かったね。
(決定稿2002年10月17日)