悪魔のカード
1 夜ごとの徘徊。
わたしは夕食後(PM9時〜11時頃)運動と気晴らしを兼ねて家の周りを散歩することにしている。
その日は八月の中旬、生暖かい風が吹く真夏の夜であった。
わたしは靴を履いて自宅から出た。
普段は八橋公園方面を散歩するのだがどうも気が乗らない。わたしは普段とは逆方向の繁華街のある方面へ散歩することにした。
「いとく」「吉野家」「カラオケシダックス」などを次々と通り過ぎてゆく。そのうち他の建物より数段大きい建物にぶちあたった。
それはブックオフ新国道店であった。ブックオフ新国道店は元「電光堂」という大規模電気店の建物を使用しているので、他の建物より一回り大きいのである。
わたしはふらふらと吸い込まれるようにブックオフ新国道店に入ってゆく。
ブックオフ新国道店は一階が主に漫画、二階が活字の本という構成で置かれている。わたしはいつも二階から見る主義である。
階段を駆け足であがる。
写真集のコーナーや児童書のコーナーを見てわたしはふー・・・と息を吐き出した。なんだか前回来た時と棚の内容がほとんど変わっていないように思える。
しようがないのでわたしは100円均一のコーナーに進もうとした。
その時。・・・
2 カード出現。
レジの横にワゴンが置いてある。
これはまだ棚に出されていない本だ。わたしはザッとワゴンの本に目を通した。五木寛之の人生論、資格のガイドブック、全集の端本、・・・とワゴンの隅のあたりに黒い箱がある。しかもその黒い箱にはビニールが被せてあるのである。
「なんだこれは?」
わたしはひょいとその黒い箱を取り上げた。
箱の表面を見ると「悪魔のカード」と書いてある。著者名はビーバン・クリスチーナ、発行元は東京スポーツ新聞社である。
100円の値段シールが貼ってある。
「んん〜・・・」
わたしは迷った。よくわからない本に出会うことは古書蒐集歴20年以上のこのわたしでもよくあることである。しかもこれは本ではない。カードである。わたしの守備範囲外の物件である。
さてどうしたものか。
わたしは「まあ100円だからな。」と気軽に「悪魔のカード」を籠に入れた。その後に100円均一コーナーを見たがめぼしい本はなし。
わたしは「悪魔のカード」一式をレジで清算して、小脇に抱えるとブックオフを出て自宅への道を歩き出した。
3 「悪魔のカード」とは何か。
自宅へ帰るとわたしはパソコンのスイッチを入れた。ブイーン・・・薄暗い部屋の中でパソコンのディスプレイがチカチカと不気味に明滅する。
やがて完全に立ち上がったパソコンの画面には「グーグル」の画面が出ている。わたしは「グーグル」に「悪魔のカード」を入れて検索してみた。
ウィキぺディアに「悪魔のカード」の項目があった。この部分を書き出してみる。
「表紙に『悪魔の力で100%近い的中率』というコピーが記載されているが、実際にはタロットの大アルカナ22枚をゴエティア、レメゲトンなど
で挙げられている悪魔に置き換え「大悪魔のカード」、同じく小アルカナ56枚を伝統的な魔術的シンボルに置き換え「小悪魔」と言い換えたタロットカードの
一種である。
なお、このカードには上記の占いに用いるカードの他、「悪魔封じのカード」が添付されており、「悪魔からの霊障」を避けるため、使用後はカードの上に乗せ
て保管せよ」と注意されている。2011年現在絶版となっているが逆にそれがカルト的な希少性を産み、復刊ドットコムなどではしばしば話題に上る。また、
古本市場においては定価を上回るプレミア価格で取引されることも多い。」
なるほど、タロットカードの一種か。わたしは納得した。しかし「悪魔からの霊障」とか物騒なことも書いてあるな。これは扱いに注意しなければならない。
わたしはさらにグーグルを検索してゆく。
次は2ちゃんねるの過去ログで「悪魔のカード」についての項目があった。わたしはすかさずそこをクリックした。
・悪魔のカードは恐ろしいほどよくあたる。
・カードの起源はキリスト教以前の時代のドルイドのカード。
・現在は絶版でプレミアがついている。
等等。
わたしは「悪魔のカード」に関する基礎的な知識を2ちゃんねるの過去ログから得た。「プレミアがついている」ならいっそ売ってしまおうかとも思った。
うまく売ればネットオークションで20000円以上で売れるそうである。
しかしその前に一度占ってみたい。
「恐ろしいほどよく当たる」のならば。・・・
4 恐怖の先占術。
しかしまてよ。・・・
わたしは一瞬、躊躇した。「恐ろしいほどよくあたる」のならもし自分があと何年生きられるのか占ってみたらどうだろう・・・?
わたしはぞッ!とした。
じぶんの「死ぬ日」がわかってしまう。これは恐ろしい。誠に恐ろしいぞ。
さらにもし自分の将来のことが全部わかってしまったら・・・!
わたしは「悪魔のカード」に秘められた真に恐るべき意味を見出した。
おおよそ未来の出来事がすべてわかってしまうほど恐ろしいことはない。じぶんが将来、どんな病気にかかり、どんなトラブルに巻き込まれ、どんな死に方をしてゆくのか・・・!そんなことはわかりたくもない。
結局、わたしは占いことを止めた。
未来は未知だから希望が持てるのだ。もし全部わかってしまったらもう希望もなにもないではないか。
わたしは現在「悪魔のカード」の一番上に「魔封じのカード」を置いて厳重に保管してある。これでカードがかってに悪さをすることはないだろう。
しかしそのうちわたしはそれこそ「魔がさして」なにかを占ってしまうのかもしれない。そうなる前に早く売らなくては。次の所有者に渡さなくてはならない。
「悪魔のカード」は今日もわたしのうす暗い部屋の片隅に厳重に置かれている。
まるで早く占ってくれ!という悪魔のうめき声が聞こえてくるかのように。
(了)
(黒猫館&黒猫館館長)