マネキンの家
怖い。
人形が怖い・・・。
歩く。
向こうから。
すり足で。
歩いてくる人形が・・・。
小学生時代。
あのことが起こったのは小学校5年の時であった。
「ギャング・エイジ」という呼び名で呼べば良いのであろうか。
その時期はわたしは常時3人の友だちと行動を共にしていた。
あれは晩秋の昼なお暗い日であったろうか。
5時限目が終わった放課後。
友だちAが学校の近くにある「空き家」に入ろうと言い出した。わたしも含め、他の二人の友だちはこの案に乗り気ではなかった。
もし空き家に入ったことが先生にばれたら。
そして先生から直電が親にかかったら。
「親」が恐怖の的であった小学生にとってはあまりに危険な冒険であった。
それでもAは強引に空き家に入ることを主張する。
Aはボス格であったのでわたしたち3人はAにしぶしぶ従うことにした。
午後3時。
再び集合したわたしたちは空き家の勝手口から内部に侵入した。
案の定、中には家具もなにもないガランとした空間であった。
ふと居間の横を見ると本棚がある。
不思議なことに本棚には本がぎっしり詰まっていた。
誰ひとりとして読む人もなかろうに。
一階を一回りして何も無かったわたしたち4人は2階に上がることにした。ここでわたしはちょっと嫌な予感がした。さっき二階からかすかな物音が聞こえた気がするからだ。
コツコツコツ。・・・
わたしたち四人の足音だけが妙に急な階段に響く。
やがて2階に到着したわたしたちは突き当たりにある襖をガラリ!と明けた。
「ギャ!・・・」
誰かがニワトリが絞め殺されるようなうめき声を発した。
わたしたち4人は一様にギョとした。
そこにあったのは人間・・・いや良く見るとマネキンであった。
それも腕がないのやら、頭がないのやら。
壮絶なマネキンたちの妖異な群舞!
友だちのひとりが叫んだ。
「ヤバイよ・・・ここ、ヤバイよ!!」
「普通ぢゃないよ!!ここ!」
「逃げよう!今すぐにだ!!」
わたしも応じた。
「早く!この家を出るぞ!!」
わたしたち四人はまるで転げ落ちるように階段を降りると家の外に出た。二階からなにやらかすかに人の声が聴こえた気がした。それでもわたしたちは来た時と同様に四人であるのだった。
友だちAが叫ぶ。
「言うなよ!親にも!先生にも!学校のヤツラにも!!」
わたしたちは忌まわしい秘密を共有した。
それからその友だちたちはみんな疎遠になった。
ちりぢりになってゆく仲良しグループのメンバーに「あの秘密」だけは今も忌まわしい記憶として残っているのであろうか。・・・
今でもわたしはこの記憶を反芻すると気味が悪くなる。
なぜ普通の民家にマネキンが沢山あったのか。
そしてもしかしたらあのマネキンたちは今もわたしたち四人を付け狙って街を徘徊しているのではないか。
子供時代の記憶。
それは素晴らしいものばかりとはかぎらない。
時にはあまりにも忌まわしい記憶も多数含まれているのだ。
オトナになったわたしたちはそのことを忘れてはいけない。
そして超自然への畏怖を持ち続けなくてはいけない。
恐らく、死ぬまで。
(黒猫館&黒猫館館長)