もうかなり昔の話である。
わたしの友人に画家の「ギーガー」の非常に熱心なマニアがいた。
仮にその友人を「友人A」と呼ぶ。
「友人A」はトレヴィルから出た「ギーガー画集」をすべて持っていたり、映画『エイリアン』を何度も繰り返し観ては感動しているといったちょっとした変わり者であった。
その友人Aがある日ぼつりと言った。
「『ギーガーズ・バー』に行きたい。」
その当時、ギーガー自身がデザインしたという「ギーガーズ・バー」なるものが目黒駅から少し歩いた場所にあったのである。
友人Aはひとりでは怖いし寂しいから一緒に来
いという。
わたしも「ギーガーズ・バー」なる物件を観たかったので早速OKして場所を調べた。
すると「ギーガーズ・バー」は目黒駅から降りて麻布方面に歩き、「白金トンネル」を抜けた場所に存在していることがわかった。
その瞬間、わたしはなにか嫌なかんじがした。
「白金トンネル」といえば東京でも有数の「心霊スポット」ではないか。
しかし今更いかないとも言えない。
しぶしぶわたしは行く日と時間を約束した。
その日はどんよりした薄曇りの日であった。
わたしと友人Aは夕日が沈むのを見ながら、目黒駅から歩きだした。
すると以外と早く「白金トンネル」に到着した。
しかし別に怪しい雰囲気はない。
ふたりはとぼとぼトンネルに入っていった。
ヤケに長いな・・・と思った瞬間、トンネルを抜けていた。
別になにもないではないか?と思いわたしたちは「ギーガーズ・バー」に入っていった。
「ギーガーズ・バー」は予想した程のおどろおどろしい物件ではなかった。
壁にギーガーのデザインしたレリーフが貼ってある程度のものであった。・・・ふと気がつくとな
んと10時を回っている。
わたしは友人Aをせかしてバーから出た。
するとまた「白金トンネル」である。わたしは嫌な予感がした。
「行きはヨイヨイ、帰りはコワイ」。
しかしこのトンネルをくぐって帰るしかない。
深夜のトンネルは夕方よりずっと長く感じられた。
歩いても歩いても出口が見えない。
友人Aも無言であった。
トンネル内の灯りがどくどくしく紅い。
・・・嫌な雰囲気になってきたな・・と思った瞬間に出口が見えた。
その時、あることが起こった。
友人A「・・・うッ!!」
わたし「ど、どうした!?」
友人A「う、、、う、、う」
わたし「だから!どうしたんだ!?」
友人A「うんこ踏んだ〜」
とこれだけなら落語のオチにもならない、陳腐な話である。
しかしなにか妙なのである。普通、トンネルにうんこが落ちているなどということはまずないのだ。
犬のうんこならある可能性はある。
しかしトンネルに深夜犬を連れて散歩に来る人間がいるであろうか?さらにそもそも行く時はそん
なものはなかった。
人間には知ってはならないことがある。
その知ってはならない世界の入口までわたしと友人Aは踏み込んだのかもしれぬ。
ポッカリと不気味に開いた「白金トンネル」の入口に吸い込まれるように。
「怪を語れば怪きたる」
わたしもパソコンの画面から転じて背中の方を振り返りたくなってきたので今夜の話は終わりである。
もう一度念のため言っておこう。
「人間には知ってはならないことがある。」