刺殺
刺されたい。
刺し殺されたい。
下らない雑踏の街で、
下らないチンピラに
下らない理由で絡まれて、
チンピラをわざと挑発して
そして奴が目玉をギラギラと輝かせながら
取り出した図太いサバイバル・ナイフで、
ズボッ!一発。
みぞおちを刺されて、
鈍くこみあげてくる、内臓の痛みは、
痛いというより、気持ち悪くて、
口から反吐の混じったざらざらした血の噴水を、
一メートルぐらい噴き上げて、
チンピラのニワトリの目のような、
やたらと無機質な怒りのこもった目玉をあざけりながら
あざけり笑いながら、
砂浜に
幼年時代の、
作った記憶にある、
砂のお城みたいに、
ずるずると、
意味もなく、
くずおれて、
ぶったおれて、
しまいたい。
そのぶったおれた場所は、
なぜか、
あの下らない、実に下らない連中が、
ミミズのように絡まりあって、
蠢いている、
神奈川県、
川崎市、
小田急線登戸駅前の、
広場のどぶの近くだったりするから、
倒れた反動で
グルグル転がって、
どぶのヘド水にアタマを突っ込んで、
最低に、
あくまで最低な奴にふさわしく、
くたばり果てて、
しまいたい。
雨の朝、登戸に死す!
なんてカッコいい言葉は似合わない。
だって最低のチンピラに、
最低に刺されて、
最低にくたばり果てたのだから。
その時、死んでゆく自分の目玉に何が写るのだろう?
なんて問うだけ無駄だ。
死んでゆくその時に目玉に写るのは、
いつもと変わらない、
下らない街と、
下らない人間、
下らない自分を刺した下らないチンピラと、
そして一番下らないものは実は自分自身だったってこと。
へら へら えへら えへら へら
下らない。
下らない。
実に下らない。
死んでゆく時に思うのは、
それだけだ。
希望なんてない。
今まで生きてきてそれがわかった。
絶望もない。
刺された瞬間それがわかった。
神もおらず悪魔もいない。
天国もないし地獄もない。
ただ死んでゆく自分がいるだけだ。
だんだん寒くなってきたよ。
だって死んでゆくのだから。
だんだん寂しくなってきたよ。
だって死んでゆくのだから。
虚無へ帰る。
それだけだ。
反吐の混じったどぶ川にアタマを突っ込んで、
そんな「哲学的」なことを考える自分。
下らない。
実に下らない。
人々はぶっ倒れている自分をチラチラ見ながら
見て見ぬふりして通り過ぎてゆく。
オイ。
自分よ。
勘違いしてないか。
他人は下らなくないんだよ!
みんな生きることに一生懸命で!
今日も明日も昨日も今日も!
一生懸命、会社に行って!
学校行って!
受験勉強してノイローゼなって!
過労死して!
ストレスのあまりガンになって!
みんな!
みんな!
戦争の中にいるんだよ!
今でも!
これからも!
磨り減ってゆく、
消しゴムみたいに!
命すり減らしながら、
なんとか生きているんだよ!
おまえにそのことを、
下らないと、
言えるのか。
まあ、バカは死なないと何もわからないってことか。
死ぬ前にそれがわかったおまえだけがくだらない自分よ。
幸せものだよ。
おまえは。
逃亡者。
いや、
敗北者か。
この人生という
残酷な戦場から、
敵前逃亡した、
情けない、
あまりに情けない、
敗北者。
うれしがって死ねよ。
ナイフで刺してくれた奴に感謝して死ねよ。
泣きながら!
喜びの涙を流して死ねよ。
さあ。
死ね。
いざ。
死ね。
死ね。
死ね。
しね。
しね。
シネ。
シネ。
ジ・エンド。
終わりだ。
すべて終わりだ。
終わりも終わりだ。
暗闇が広がる。
光が消える。
さらば。
死んでゆく。
死ぬ。
死にます。
けしえら・・・すおら、おり、ねおら・・・・
消える。
(2007年4月9日・黒猫館&黒猫館館長)