闇への供物
(異界からの遺書)
『闇への供物』
という一冊の本を書いてみたい。
装釘は総革装釘。
処刑された死刑囚の人皮で装釘してもよい。
三方黒。
ちつ、外函入。
題名は銀箔で捺す。
字はもちろん肉筆。
できたら人血を使う。
限定10部。
アラステアの背徳的な彩色済みエッチング三葉を添える。
この本はわたしの親しい人間10名だけに極秘裏に密送される。
10名の名前はもう決めてある。
もちろん密送されるのは、わたしの死後3日以内。
わが家の年老いた老執事が責任を持って発送する。
発行元は黒猫館秘密文献発行所。
この出版社は過去にわたしの私家版詩集を二冊発行している。
内容・・・。
ユーラシア大陸の地下4000メートルの地底にはてしなく広がる底知れぬ「くらやみ」の世界。
大監獄の祭壇に生贄として供じられる無垢なる少年少女の群れ。
阿鼻叫喚の狂宴にこだまする弱き者らの強烈な叫び。
異様なエロティシズムが全篇を彩る。
(サディズム、マゾヒズム、ハードゲイ、ネクロフィリア、・・・スカトロ、そして大殺戮。)
途方もない悲劇が物語を締めくくる。
最後に訪れるものは、主人公の頬をつつっと一筋流れるナミダ。
狂気よりも深い冷静な絶望。
この書物の読者は一度読んだだけで、絶望のあまり塞ぎこみ、自室に引きこもり、徐々に社会から抹殺されてゆく。
やがて食事もノドを通らなくなり、しだいに痩せこけてゆく。
暗い自室に閉じこもった痩せこけた男、あるいは女の眼が驚いたように見開かれる時、
訪れる「死」への憧憬。
そのような本を書き、そして選ばれた10名に密送すること。
それがわたしの夢だ。
ある晴れた日の午後、貴方の家の郵便受けに真四角の黒いケースが届けられたら、
貴方よ。
震え、畏れよ。
そのケースは間違いなくわたしからの遺書、
すなわち、
『闇への供物』
なのだから。
(黒猫館&黒猫館館長)