死刑報道
(松本智津夫被告死刑確定の夜に)
明るい家庭の夕飯のひとこまにもヌッと魔は入り込んでくる。
ちまちまと「おかず」が盛られたちゃぶ台。
煌々と光る蛍光灯。
そして居間の真中に鎮座するテレヴィ。
そのテレヴィから顔を引きつらせたアナウンサーがヒステリックな金きり声で叫ぶ。
「本日、○○時、麻原将光、本名松本智津夫被告の死刑が確定しました!」
家族が突然押し黙る。
下を向く母。
新聞を読み始める父。
それをみて、なすすべもなく、しどろもどろになっているわたし。
死刑とは。
ひとがひとを殺すこと
である以上に
法に基づいて
人間を合法的に
処刑すること。
その妖しいエロチシズム。
死刑報道が報じられるたびに
一斉に家族は押し黙る。
隠されたものが暴かれること。
突然にヌッと現れる蒼白い女の裸にも似た
忌まわしく曝け出される世界の秘密。
わたしは死刑を肯定も否定もしない。
ただ脅かされている。
その「制度」が見えないところで黙々と存在していること。
そして、忘れた頃にヌッと姿を現すことを。
今にも床の一角が抜け、
死刑囚がストンと穴へ落ちる。
小便がズボンの裾から流れる。
勃起した陰茎。
飛び出した目玉。
涎がべろべろと滴る。
そんな死刑が行われている、
そのことを、アッと気づく時、
アナウンサーが金きり声をあげている。
死刑が行われている。
わたしたちの知らない場所で。
黙々と。
奇妙な勤勉さで。
(2006年4月4日・黒猫館館長作)