空について
空は優しくはない。
雪を降らせ、また雨を滴らせる。
心まで濡らすような暗い曇天。
西暦2005年冬。
しかしひとはみな知っている。
雪は必ず溶けるものであると。
雨は必ず止むものであると。
それだからひとは冥い雨の降る月曜日の朝。
もまれても、もまれても職場へ急ぐことができるのだ。
一日の厳しい仕事が終わる。
職場を出た瞬間、
空を見上げる。
そこにパノラマのように映えるものは満天の星空だ。
空はその時、確かに優しい。
仕事の疲れも人間関係のごたごたも、
満天の星空を見ることができるなら。
すべてが癒やされ溶かされてゆく。
空は時に厳しく、時に優しい。
そんなことを想いながら今日もわたしは厳しい一日を生きる。
いつか真っ青に晴れ渡った空。
時は陽春・五月。
地平線の果てまでも続く草原。
大きな菩提樹の下で。
楽しそうに遊び戯れるわが子。
それを見て微笑む妻。
そしてわたし。
曇天の空を見上げながら想う。
いつかそんな日がくる。
いや必ずこの手で呼び寄せる。
西暦2005年冬。
空はいまだ暗い。
(決定稿2005年3月12日)
(この作品の初稿は黒猫館館長のひとりの大切な友人のために捧げられた。)